2025年9月21日日曜日

教会の一致

日本基督教団足立梅田教会(東京都足立区梅田5-28-9)


説教「教会の一致」

コリントの信徒への手紙一 1 章10~17節

関口 康

「兄弟たち、わたしたちの主イエス・キリストの名によってあなたがたに勧告します。皆、勝手なことを言わず、仲たがいせず、心を一つにし思いを一つにして、固く結び合いなさい」(10節)

先週の礼拝で「復活の体」の話をしました。今日は「教会の一致」についてお話しします。先週と今週とで共通点があると思っています。両方とも、教会にいる私たちこそが疑わしいと思っていることです。

私たちは「復活の体を見てみたい(見たことがない)」という疑問と同じぐらい、「一致している教会を見てみたい(見たことがない)」という疑問を持っています。

私が牧師(最初は「伝道師」)になったのは1990年です。今年で36年目です。これまでの経歴は教会ブログの「牧師紹介」で公開しています。転任が多かったです。「転々としてきた牧師」が悪い評価になりがちなことは、よく分かっています。しかし、同世代の牧師たちの中では、私の転任回数は平均的なほうです。世代が関係していると思います。日本の教会の歴史の中で大規模な世代交代が行われました。

これまで働かせていただいた教会を悪く言うつもりはありませんが、私の転任の理由はすべて「教会分裂を回避するため」でした。私が分裂の原因だったことがないとは言いませんが、赴任する前から分裂していた教会に赴任したケースが多かったです。

どの教会でも同じ現象が起こりました。例外はありません。今日の箇所に書かれているとおりのことが起こりました。今日の箇所を読むと私の古傷が痛みます。身を切る思いでお話しします。話し終わるまで立っています。急に倒れたりしませんのでご安心ください。

今日の箇所に記されているのは、コリントの教会が分裂しているという知らせを聞いたパウロが「教会を分裂させてはいけない」と強く訴えている言葉です。

コリントは、ギリシアのアテネから西に85キロほど、高速道路経由で 1 時間です。私は一度だけ現地に行ったことがあります。その教会が分裂しているという知らせを、パウロは「クロエの家の人たちから知らされました」(11節)と書いています。

この言葉の意味を考えたことがありませんでしたが、今回調べて分かったことをご紹介します。「クロエ」という名はギリシア神話に登場する女神デメテルの愛称です。このデメテルは金髪で美しい女神として描かれています。その「女神デメテル」の愛称と同じ「クロエ」という女性名を持つ方とその家族の人々がコリント教会にいました。

「クロエ」について、ポップ先生(François Jacobus Pop [1903–1967])(※注)というオランダ人の聖書学者が書いた註解書(De eerste brief van Paulus aan de Korintiërs, De Prediking van het Nieuwe Testament (PNT), 1965)に興味深いことが書かれていました。

「使徒が情報源を明示していることは注目に値する。彼は普段はそうしないからである。コリントの人々からも尊敬されている信頼できる人々から情報を得たと示唆しているのだろうか」。

「確かに」と思いました。教会の内部の問題を外部に持ち出して訴えた人の名前が公開されれば、たちまちその人が教会の中で非難の的になるでしょう。そうなることを承知のうえでパウロが「クロエ」の名前を書いたのだとしたら、この女性はコリント教会の中で強い影響力を持っていたに違いありません。

コリント教会の分裂状態を象徴的に描いているのが12節の言葉です。

「あなたがたはめいめい『わたしはパウロにつく』『わたしはアポロに』『わたしはケファに』『わたしはキリストに』などと言い合っているとのことです」(12節)

これが私も体験したことです。どの教会でも例外なく目撃した現象はこれでした。ポップ先生の註解書に、この 4 つのグループのスローガン「私はだれそれさんにつく」の名前の順序に意味があると書かれていました。

「パウロ」はコリントの最初の伝道者であり、コリント教会の創立者です(4章15節)。ただし、パウロは西暦50年頃から 1 年半しかコリントにいませんでした。

「アポロ」はパウロの次にコリントに赴任した 2 代目の伝道者です。アポロ牧師のときに教会員が増えました。雄弁で有能な、人気ある説教者でした。しかし、パウロとアポロは教えの内容に違いがありました。それが「パウロ派」と「アポロ派」の対立を生みました。

「ケファ」は使徒ペトロです。ペトロは当時の「教団」の中心に位置するエルサレム教会の説教者でした。コリント教会の中で「パウロ派」と「アポロ派」が争うのを憂いた人たちがペトロの権威に頼ろうとしました。

「ここまでは理解できる」とポップ先生が書いておられます。おっしゃるとおりです。私も同意します。これは理解できる話なのです。わたしたち人間には感情があります。相手が誰であれ、牧師であれ、好き嫌いや親しみの気持ちで近づいたり離れたりするのは当然のことです。個人的にお世話になったかどうかは大事な要素です。そのことを互いに認め合うことができさえすれば、「パウロ派」と「アポロ派」と「ペトロ派」は共存可能なのです。

ところが、「キリストにつく」と主張する第 4 のグループが現れたとき、教会分裂が修復不可能なレベルに達しました。なぜでしょうか。ポップ先生は次のように記しておられます。

「キリストにつくと主張する人々の行動は、他のグループよりも教会の安定と一致にとってさらに危険なものであった。なぜなら、パウロにつくと主張する人も、アポロやケファにつく人々も、キリストに属していることを認めることができたからである。しかし、キリストにつくと主張する者が現れると、他の人々に自分たちはキリストについていないと考えているという印象を与えずにはいられない。さらに悪いことに、彼らはキリストの名をパウロ、アポロ、ケファの名と同列に扱った。キリストを教会全体の頭とする代わりに、彼らはキリストをひとつのグループの頭とした」

これは感動的な解説です。全くおっしゃるとおりです。「キリストにつく派が最もタチが悪い」という解説に初めて接したという意味ではありません。私が東京神学大学で学んでいた1980年代後半に、山内眞先生(1940-2025)がそのようにチャペル説教で説明なさった記憶があります。忘れかけていた遠い記憶に確証が与えられました。

「キリストにつく派」が最もタチが悪いことは事実です。「(創立者を重んじる)パウロ派」も「(現在の牧師を重んじる)アポロ派」も「(教団の権威を重んじる)ペトロ派」も、キリストに従う意思を持っています。その意味では彼らも「キリスト派」であることに変わりありません。しかし、その 3 つのグループと対立する形で「キリスト派」が登場すると、教会の分裂が修復不可能になります。3 つのグループを、まるでキリストに従っていないかのように侮辱することを意味してしまうからです。

ここで大事なことは、「キリストにつく」という主張を、水戸黄門の印籠のように持ち出してはならないということです。「教会は人間のものではなく、キリストのものです」と。そんなやり方は、何の解決にもならないし、教会に最も深刻な亀裂を生じさせるのです。

パウロの結論は12章12節以下に記されていることです。ひとつの体の中に多くの部分があるのだから、目が手に、頭が足に「お前は要らない」と言えないだろうというあの話です。

「トムとジェリー」の主題歌を覚えておられますか。「トムとジェリー、仲良くケンカしな」。

教会が分裂して立ち行かなくなって、教会をやめてしまったり教会堂を失ったりすると、町の人たちからキリスト教そのものへの信用を失って、その地で二度と伝道ができなくなります。教会を分裂させてはいけません。

「仲良くケンカする」トムとジェリー方式がうまく行けば「持続可能な教会」(Sustainable Development Church)になることができるでしょう。

(2025年 9 月21日 日本基督教団足立梅田教会 主日礼拝)

※注

フランソワ・ヤコプス・ポップ氏(François Jacobus Pop [1903–1967])はオランダ改革派教会(Nederlandse Hervormde Kerk (NHK))の牧師。1945年から1965年まで「教会と世界研究所」(Het instituut Kerk en Wereld)の指導的立場にありました。

特に、オランダの2つの改革派教会(Nederlandse Hervormde Kerk (NHK)とGereformeerde Kerken in Nederlands (GKN))の分裂を終わらせるために1961年4月24日に結成された「18人の会」(Groep van Achttien)を主導する推進役として活躍しました。

彼らを中心とする運動が「共に道を歩むプロセス」(Samen op Weg-proces)へと発展し、2004年5月1日に教会合併が行われ、オランダプロテスタント教会(Protestantse Kerk in Nederland (PKN))が設立されました。

ポップ牧師について
https://www.trouw.nl/voorpagina/de-achttien-f-j-pop-1903-1967~bcb1a34e/

18人の会について
https://nl.wikipedia.org/wiki/Groep_van_Achttien_(PKN)